
源氏物語は、作者が紫式部、今から千年前の作品で、宮廷文化が花開いた平安時代に宮中で読まれ、大ベストセラーとなった作品です。全54帖あり、登場人物は400人を超え、主人公の光源氏を中心に、愛と嫉妬、栄光と挫折が織り成す世界です。
この源氏物語は、日本で一番「絵」にされている物語で、その「絵」のことを「源氏絵」といいます。一番有名なのは、「源氏物語絵巻」

で、これは、きらびやかな国宝ですが、ニューヨークにあるパブリック・ライブラリーには日本から渡ってきた謎の絵巻があります。それは、フランスにも・・・。
謎の源氏絵の数々が、世界中に散らばっているのです。その数、2500枚。
1000年たっても私達を魅了する源氏物語。
光源氏は、亡き母の姿を求めて色々な女性と逢瀬を重ねていきます。また、権力闘争に関わって、挫折し、その中からまた上り詰めていく・・・。
当時の人々の心を掴んだ理由は、作り物ではなく、生活に密着していたこと。それまでも、竹取物語などがありましたが、御伽噺のようで・・・。当時の人々も、光源氏と同じように、人を愛し、苦悩していた・・・。源氏物語は、そんなリアリティのある作品だったのです。
現時絵は、源氏物語から100年後ぐらいに現われます。
徳川美術館に収められている絵・・・。今も多くの人を魅了して止まないその絵は、あえて表情を抑えて、見る人の感情のままに見せています。当時の最高級の顔料を使用しています。
作るように命を下したのは、白河上皇でした。この人は、天皇→上皇→法皇となった人で、40年以上も権力を握ったその人です。
白河上皇は、光源氏と重なる一面がありました。
早くに母親を亡くしていること。
数多くの愛人がいたこと。
そうして、この白河上皇が源氏絵を書かせたことが・・・源氏物語の舞を舞ったことが・・・、今まで個人で読むという楽しみから、大々的な祭りに仕立て上げ、権力を誇示する政治的なものへと変化したのです。
単なる物語でなくなってしまった瞬間でした。
ここに、世界的なプロジェクトが始まります。
フランスのパリで、8万円近くもするという源氏絵の豪華本が発売されることになったのです。
ヨーロッパでも人気の高い源氏物語。個人が持っている新しい絵が次々と見つかり、その数は19カ国にわたり2500枚にもなりました。そのうちの520枚が、この豪華本に掲載されています。
この2500枚、年代別に分けてみると・・・。
16c~17cに集中していることがわかりました。
誰が何のために書いたのでしょうか?
ボストンにあるハーバード大学に、16cはじめに作られた源氏物語画帖があります。これは珍しいことに、巻物ではなく本に綴じられた源氏絵でした。平安の優美さとはかなり違う画風で、荒々しく、その画帖には、数多くの荒ぶる者が書かれていました。
絵の裏紙をはがすと、6人の名前が書かれていました。そのひとりは、三条西実隆・・・源氏物語の研究者でした。そのパトロンは、陶三郎、ひいては大内左京大夫義興・・・つまり、武士だったのです。大内義興は、当時、山口を本拠地とする西国の勇とされ、都への強烈な憧れを持っていました。都の公家と強いつながりを持っていました。
中国などと貿易をし、お金を作り、公家達と親交を深めていたのです。1508年、都に上洛しており、その翌年に、この源氏物語画帖が発注されています。
須磨に流されるも、帰ってくるとライバルを蹴落とし太政大臣にまでなった光源氏・・・。その姿に自分を照らし合わせていたのです。つまり、武士というパトロンが、天皇に認められる武士としての自らを、源氏絵に投影した画風になっているのです。
この時・・・源氏絵が武士のものになった瞬間でした。
2500枚の時代の振り分けは、平安時代が20枚、鎌倉・室町時代が300枚、安土桃山・江戸時代が2200枚・・・と、9割が武士が書かせたものでした。
信長が、謙信に送り、秀吉は源氏物語で勉強し、家康も講義を受けています。
そうして、源氏物語は江戸時代に入ると徳川家の権威を象徴するものとなります。調度品の蒔絵には、絵として、金銀とともに施され、将軍家の嫁入りの時は、これを必ず持って行ったとされています。将軍家が、王朝文化の正当な系統者となった瞬間でした。
こうして源氏絵は、天皇や公家から、武家のものとなり、徳川家のものとなりました。
また、2500枚の絵の中には、源氏絵の伝統に逆らった絵も存在します。
逆境に立たされた光源氏、烏帽子も装束もとったあからさまな姿、藤壺の出家の瞬間などが書かれている絵です。これは、日本でも議論されているのですが、この絵は、京狩野に良く似ています。京狩野は、もともとは豊臣のお抱えの絵師でしたが、徳川時代に敬遠され、公家のお抱えになっていました。
この絵は、天皇や院、摂関家などの光源氏を超える身分の人でないと、描くことはできません。高貴な身分の人が描かせたと思われるのです。
@絵師は、朝廷とつながりのある京狩野
A光源氏を赤裸々に描かせることのできる位の高い人
Bかつてない大規模の壮大な絵巻を作る力がある
ということから、一介の公家とは考えにくいのです。
そこから、後水尾を中心とするような宮中勢力が考えられます。
この後水尾天皇は、徳川幕府に翻弄された一生でした。禁中並公家諸法度の発布により、天皇の権力が幕府によって統制され、制限されました。天皇にとっては大きな屈辱でした。
圧倒的に強い国家権力・・・。後水尾天皇は、徳川家の一大イベントに参加するため二条城に行幸します。最大の屈辱は、そこで舞ったのは源氏物語の「青海波」だったということ。主催したのは、徳川秀忠でした。
そんな中書かれたこの源氏絵には、上皇となって徳川家に対峙した、上皇の反逆性が表されているのでしょう。
江戸時代には、町人文化として花開きます。
文化文政時代、数多く出版され、「偐紫田舎源氏」が発売、40万部の江戸時代最大のベストセラーとなりました。
また、活劇に仕立て直され、女性の多くは将軍の側室や奥女中に置き換えられ、着物から髪形まで流行となりました。これは、華やかな将軍家への憧れでしょう。
また、前代未聞の「艶柴娯拾余帖」は、偐紫田舎源氏を基にした春画でした。当時の最高水準の絵で、空摺り、金銀も沢山施されていました。
幕末にかけて庶民に浸透しましたが、明治天皇を中心とする近代国家が誕生。源氏絵の排斥運動が始まります。内村鑑三に言わせると、「源氏物語」が、日本の士気を鼓舞するために何をしたか。我々を女らしき意気地なしにした。」のだそうです。
紫式部は罪人である。とまで言われ、海外に流出する源氏絵。
大英博物館にある源氏絵たちは、多くは明治時代、外交官によって持ち帰られたもので、全部で70枚あります。
1925年、アーサー・ウェーリーによって、10年をかけ「英訳源氏物語」が完成します。このお陰で、世界12大小説の一つとして絶賛されます。
20世紀文学にありそうなことは、すでに900年前にあったと、言われ、特に「若菜」の帖が絶賛されています。わが手に抱く子が、自分の子供ではない?という心にさいなまれるという、因果応報を表した帖です。
このことで、日本でも息を吹き返し、昭和13年国語の教科書に載ったのです。
日本語の現代語訳は、谷崎潤一郎によって行われますが、その途中、日中戦争が勃発。天皇家の不義密通をどう訳せばいいのか?そのため重要な部分は割愛し、「骨抜き源氏」と言われることになります。
谷崎自身も本意ではなかったので、1945年太平洋戦争終結後、割愛していた部分を書きたいと出版社に申し入れ、完全なるものとして出版。戦後ブームのきっかけを作ります。
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昭和26年には、映画「源氏物語」が、長谷川一夫、音羽信子によって作られました。初めて映画に天皇が登場した映画です。
![源氏物語(1951) [DVD] / 長谷川一夫, 木暮実千代, 京マチ子, 乙羽信子 (出演); 吉村公三郎 (監督) 源氏物語(1951) [DVD] / 長谷川一夫, 木暮実千代, 京マチ子, 乙羽信子 (出演); 吉村公三郎 (監督)](https://images-fe.ssl-images-amazon.com/images/I/41ZYgSf17fL._SL160_.jpg)
現代の源氏絵・・・マンガにもなります。誰もが知っていますね。
「あさきゆめみし」です。
![【漫画】あさきゆめみし [完全版] (1-10巻 全巻)大和和紀
あさきゆめみし [完全版] (1-10巻 全巻)](http://mangazenkan.com/upload/save_image/359/A-57_detail.jpg)

これは、1700万部の脅威の売り上げとなっています。
天皇、武士、庶民、時代によって違った形で人々がこの魅力に取り付かれています。
それは、今も昔も人を思う心に変わりはないということなのでしょうね。
そうして今年も、生田斗真主演で映画化されます。

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![色鉛筆で描く大人のぬりえ塾―源氏物語画帖〈2〉 (色鉛筆で描くぬりゑ塾) [大型本] / 中野 幸一 (著); 美術出版社 (刊) 色鉛筆で描く大人のぬりえ塾―源氏物語画帖〈2〉 (色鉛筆で描くぬりゑ塾) [大型本] / 中野 幸一 (著); 美術出版社 (刊)](https://images-fe.ssl-images-amazon.com/images/I/51BGST1PYRL._SL160_.jpg)
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